ペット災害対策推進協会へインタビュー
今回は、1995年1月「兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)」の発生に伴い、現地動物救護本部が立ち上がり、被災動物救護活動が開始され、1996年8月に任意団体「緊急災害時動物救援本部」として設立、2014年6月に一般財団法人へ改組してからも、災害時における現地動物救護本部への後方支援活動を続けてきた「一般財団法人ペット災害対策推進協会」が、2019年12月末をもって活動を終了し、解散することになりました。これまでの貴重な経験を踏まえたご意見やアドバイスを頂きたく、インタビューしました。
改めまして、ご多忙の中、当サイトへの質問に丁寧にご回答いただき、誠にありがとうございました。そして、長期間のご活躍、本当にお疲れ様でした。
1.救援本部を設立した際に、具体的にどういった機能が必要と思い設立されたのでしょうか?
<設立経緯>
平成7年1月17日に発生した阪神淡路大震災の際、現地動物救護本部が行う被災ペット救護活動への後方支援団体として「兵庫県南部地震動物救護東京本部」が立ち上がりました。
平成8年8月、現法人の前身である「緊急災害時動物救護本部」が「兵庫県南部地震動物救護東京本部」を母体として立ち上げられ、さらに平成26年6月に法人化されて「一般財団法人緊急災害時動物救援本部」となりました。平成28年3月には、法人の名称を「一般財団法人ペット災害対策推進協会」に変更し、緊急災害発生時における現地動物救護本部での被災ペット救護活動に対する後方支援を続けてきました。
主な後方支援活動は、次のとおりでした。
① 国、自治体等関係機関との総合調整
② 活動資金の支援、物資の送付調整
③ 専門家の派遣、被災ペット救護活動への技術的支援
また、災害発生時だけでなく、平常時活動として次のような活動を行ってきました。
① 動物救護に関する知識の普及のための講演会等の開催及び講師派遣
② 現地本部の組織化に対する支援
③ 物資及び人材等の支援調整
このように、本協会の機能は、現地動物救護本部が行う被災ペット救護活動への後方支援であり、本協会自らが直接被災ペットへの救護活動を行うものではありませんでした。
2.設立時に、目標としていた救援本部の未来の形はどういったものだったのでしょうか?
阪神淡路大震災やそれ以降に発生した災害時において、被災地の自治体や獣医師会の活動に対するノウハウや経験が浅く、活動に関するアドバイスを行う団体等が必要でした。
そのため、災害が発生した際には、本協会から経験者等を派遣し、被災ペット救護活動に対してアドバイス等を行ってきました。
しかし、本来なら、「ペットの飼い主の自助による対応」を推進するとともに、公助として被災地の自治体や獣医師会が中心となって被災ペット救護活動を行うことが理想と考えており、その体制をつくるため、一般飼い主、自治体職員、獣医師会会員、ボランティア団体等を対象として災害発生時の対応方法等について研修を行ってきました。本協会が目標とする未来の形は、本協会による後方支援が必要でなくなるような、体制が全国で出来上がることです。
3.現時点で、設立時に目標としていた形は、どの点が実現できていますか?良く機能している点などを教えてください。
完全に理想とする体制ができたとは思っておりませんが、次のような状況になってきているのではないかと思っております。
(1)繰り返しになりますが、被災ペットの救護活動は、現地動物救護本部が中心となって行うことが理想ですが、これまで現地動物救護本部の中心となる自治体や獣医師会での体制整備ができていなかったことから、本協会が現地動物救護本部の体制整備や災害発生時の被災ペット救護活動に対する技術的アドバイス、物資や人材の支援調整、寄附金の募集などを行ってきました。しかし、最近では、地方自治体や地方獣医師会の災害時における被災ペット救護活動に対する体制整備が進み、地域ごとに自治体と獣医師会などが事前に協定を締結し、災害時の被災ペット救護活動のマニュアル作成等を行うなど、緊急災害時の対応体制が確立されました。
また、被災ペット等に配布するペットフードやペット用品に関して地域ごとに備蓄する動きが加速しており、さらには近隣自治体等との広域支援体制の確立も図られつつあります。このため、災害発生時に本協会が現地動物救護本部に対して行ってきた後方支援活動の必要性がなくなってきています。
(2)環境省では、平成25年度に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を、平成29年度には「人とペットの災害対策ガイドライン」を作成するなど、災害発生時における被災ペット救護体制の構築等を積極的に指導しています。
また、(公社)日本獣医師会においても、対策マニュアルや地域活動ガイドラインを策定し、被災地の地方獣医師会と連携した被災ペット救護体制を確立しつつあります。
このため、全国段階においても、本協会が行ってきた自治体等に対する被災ペット救護活動に対する技術的支援や関係団体の総合調整の必要性がなくなってきています。
4.逆に、目標に届かなかった点はありますか?機能しなかった点など教えてください。
現地動物救護本部が被災ペットの救護活動を行うために必要な物資は、現地動物救護本部が備蓄などして準備しておくことが理想ですが、備蓄が進んでいない自治体も見られます。そのため災害発生時には一部の現地動物救護本部から物資の支援を求められる状況となっています。
本協会は、物資の支援要請があった場合は、本協会から一般社団法人ペットフード協会や一般社団法人ペットフード協会に物資の支援調整を依頼し、両協会は、それぞれの会員であるメーカーと調整し、現地に物資を送付することとなっております。
本協会が解散した際、現地動物救護本部と両協会との調整を誰が行うかの問題が残りますが、現在、両協会等ペット関連業界の4団体で、支援物資の調整を行うシステムを構築中であり、本協会が行っておりました物資支援調整の役割を果たしてもらえるのではないかと思っております。
5.年々災害が増える日本ですが、これからより安心安全にペットたちと暮らすため、飼い主や行政の方へ、ご意見や提案などお願いします。
(1)飼い主の方へ
最近よく言われておりますが、「ペットとの同行避難」を行っていただくことが重要だと考えております。そのためには、次のような「日ごろからの備え」が必要となっており、平常時から飼い主への啓発が必要です。
① 住まいの防災対策
② ペット用の避難用品の準備
③ ペットのしつけと健康管理
④ ペットが迷子にならない対策(マイクロチップ装着等)
⑤ 地域住民との連携
(2)行政の方へ
行政の方が行う活動としては、飼い主に対する啓発(平常時)と公助としての動物救護活動(災害発生時)があります。
① 飼い主の方が同行避難できるような啓発と環境づくり
・ 飼い主の方への同行避難の必要性の啓発、適正飼育指導
・ 避難所でのペット受け入れ態勢の構築
② 自助ができなかった被災ペットの救護活動の実施
・ 避難所等に入れなかった動物の一時預かり
・ 避難所、自宅等に避難している動物へのペットフード、ペット用品の配布
・ 飼い主とはぐれて被災地内で放浪しているペットの保護
・ 保護したペットの飼い主への返還、新たな飼い主への譲渡
6.被災地とそれ以外の差や、被災しても時間経過とともに自然と薄れてしまう人の危機感や意識の落差を少なくするため、防災に対する意識を維持するための良い方法などありましたら、教えてください。
5に記載したような平常時の活動としての啓発活動を継続することが重要と思います。また、行政や獣医師会に対しても現在環境省が行っているような行政職員等への研修も継続することが必要だと思います。
7.災害時、避難所にはペットの同伴避難が前提とされていますが、実際には難しいようです。現在の日本のこういった事実に関して何か想いをお持ちでしたら、教えてください。
私自身も阪神淡路大震災での動物救護活動を経験し、避難所での被災ペットの受け入れの難しさを痛感しています。
現在では、多くの自治体において、災害発生時に避難所で被災ペットを受け入れできるような体制づくりが進んでいますが、阪神淡路大震災のような大規模災害が発生しますと、避難所に入れない被災者が多く出てきて、計画通りに被災者を受け入れができなくなり、結果的に被災ペットの受け入れもできなくなります。
また、避難所には動物嫌いや動物アレルギーの方がおられ、どうしても避難所内にペットを入れることができない状況もあり、逆に避難所に入れたペットが鳴き声やふん尿による環境汚染、人と動物の感染症問題などによって避難されている方に迷惑をかけるなどの問題によって受け入れを拒否される状況となっています。
このことは、人優先の考え方からすれば、被災ペットの受け入れが後回しになることはやむを得ない状況だとは考えますが、できる限り被災ペットの受け入れがスムーズにできるような体制づくりを行っておくことも重要です。しかし、どうしても受け入れができない場合の対応として、公助による対応(一時預かり)も準備をしておくことも必要となります。
「災害が発生すればペットも被災する」ということをペットの飼い主だけでなく、一般の市民の方や動物行政に携わっておられない行政職員の方にも理解していただき、災害によってペット雅犠牲にならないような社会づくりを目指していただければと思っております。